2014年(平成26年)11月6日[木曜日

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Business特集

ロボットが身近になる社会

11月5日 19時25分

新井俊毅記者

今、ロボットが大きく変わろうとしています。これまで産業用が中心だったロボットですが、ロボットの頭脳となる人工知能が急速に発達。私たちの身近な存在になろうとしているのです。ただ、人工知能が私たちの暮らしをよくしてくれるという期待感がある一方で、人間の頭脳を超えると危険視する見方もあります。開発の最前線で今、何が起きているのか、日本そしてアメリカを駆け足で取材してきた経済部の新井俊毅記者が報告します。

“ロボットの定義”が変わる

過去5年ほどでロボットの在り方は劇的に変わりました。今やロボットは手術室にも家庭内にもいて、車も飛行機も自動操縦です。昔ならロボットと見なされなかったかもしれませんが、今やこうしたものがロボットに変わっているのです」

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アメリカ・シリコンバレーにあるオフィスでそう語ってくれたのは、大手IT企業「グーグル」の元副社長、セバスチャン・スラン氏です。

もの静かな学者のような雰囲気を持つスラン氏は名門・スタンフォード大学でロボット工学と人工知能の研究を続け、つい最近まで「グーグル」の研究開発機関「グーグルX」のリーダーとして自動運転車やメガネ型端末の開発プロジェクトを率いてきました。

私は「機動戦士ガンダム」などアニメの影響もあって「ロボット=2足歩行」というイメージを強く持っていました。

しかし、インタビューでスラン氏が語ったのは、ロボットの定義自体が大きく変わろうとしている、ということでした。

ロボット技術が家電や自動車など私たちの生活を支えるさまざまなものと組み合わさることで、“ロボット化”するとして、近い将来、われわれの社会を劇的に変えると予言したのです。

スラン氏は「今は歴史上特筆すべき瞬間だ」と述べました。

シリコンバレーで働くロボットたち

多くのIT企業が集まるシリコンバレーでは、身近なところでロボットが活躍している姿を見ることができました。

地元のホテルで働いていたのは、高さ1メートルほどの「バトラー(執事)ロボット」。

客室から「タオルや歯ブラシを届けてほしい」という電話が入ると、フロント係はタオルなどをロボットに預けます。するとロボットはみずからエレベーターに乗り込み、客室に届けました。

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バトラーロボットを開発した企業は、今後、ロボットどうしがインターネットでつながり、互いに連携しながら人間に代わってサービスを提供する未来を描いています。

このほかシリコンバレーにある工場では製造ラインを巡回してチェックする「見回りロボット」が働いていました。

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ベンチャー企業が開発した新型ロボットが次々に身近な場面に投入され、それが日常の風景になりつつある現状を目の当たりにしました。

ロボットの頭脳“人工知能”に注目

こうしたロボットの進化を支えているのは、機械や部品など一つ一つの「もの」にインターネットを組み込んだIOT(Internet Of Things)と呼ばれる技術。それにロボットの頭脳にあたる人工知能の発達です。

シリコンバレーの大手IT企業はこぞってこの分野を強化。

世界最大の交流サイトを運営するフェイスブックは、去年12月に人工知能の研究施設を立ち上げたところです。

中国の検索最大手「バイドゥ(百度)」もことし5月、シリコンバレーに人工知能の研究所を設置。

研究所のトップには、人工知能の世界的な権威で「グーグル」の人工知能のプロジェクトを率いていたアンドリュー・エン氏を引き抜きました。

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エン氏は「ロボットの中核になるのが人工知能です。人工知能は家庭やオフィスにロボットを普及させる手助けをしてくれるはずです」と話していました。

エンさんは、現在約90人の研究者を来年までに200人に増やし、ロボットの頭脳の研究体制をさらに強化する計画だと明かしました。

ロボット大国・日本はどう動く

産業用ロボットを中心にこれまで「ロボット大国」として世界をけん引してきた日本でも、人工知能を活用したロボット開発が本格化しています。

東京工業大学の長谷川修准教授が見せてくれたのは、小型の無人機がみずからバランスを取りながら空中でホバリングするという技術。

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無人機に衝撃を加えても、すぐに態勢を立て直し元の位置でホバリングを続けます。バランスを取るにはどういう飛び方をすればよいか、人工知能がみずから学習して覚えるのだといいます。

長谷川准教授たち研究グループは、ことし7月、ベンチャー企業を設立。この技術をロボットに応用できないか国内外のメーカーなどと協議を進めているということです。

「ソフトバンク」も人工知能を使った家庭用ロボットの販売に乗り出します。

複数のロボットがデータをクラウドに蓄積することで、ロボットが『経験値を共有』し、個々のロボットが加速度的に進化することができると言います。

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将来的には、ロボットを情報端末として活用し、ユーザーの好みや生活パターンをデータとして吸い上げて、さまざまなビジネスに展開しようとしています。

開発責任者の林要氏は「実用化を急いだのは、ロボットのプラットホームを握るのがいちばん大事だと考えたからです。1番手になるのか3番手になるのかで非常に大きな違いがあります」と話していました。

この発言にあるように今回私が取材した国内のロボット関係者の多くが「日本がロボットの分野で主導権を握らないと、スマートフォンのようにグローバル展開に失敗し産業が衰退するおそれがある」という強い危機感を口にしていたのが印象的でした。

人工知能の可能性、そして脅威

今後、人工知能を搭載したロボットが普及すれば、われわれの暮らしは劇的に変わることになります。

人間が指示さえ出せば、あるいは、指示を待たずにわれわれの行動を先読みして、ロボットがすべてやってくれる、というような時代がすぐそこまで来ているのかもしれません。

一説には、2045年には人工知能が人間と同じ程度の学習能力を持つとも言われていますし、もっと早くそうなるという専門家もいます。

一方で、人工知能を搭載した未来のロボットが制御できなくなるのではないかという警戒論も強まっています。

その代表格がアメリカの電気自動車メーカー「テスラモーターズ」のCEOイーロン・マスク氏です。

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マスク氏は最近「人工知能は核兵器よりも潜在的に脅威だ」と発言。
社会に波紋を広げました。

今回インタビューに応じた元「グーグルの副社長」スラン氏も、人工知能の出現で、人間の仕事が奪われると認めたうえで、「人間は一生のうちに、何回もスキルを身につけなければならない」と述べて、人間の側も能力を高めてロボットにはできない仕事を見つける努力をすべきだとしています。

少子高齢化で労働人口が減少する日本では、サービス産業や介護の現場で人の暮らしを支えるロボットに対する期待が高まっています。

長足の進歩を遂げるロボットと、どう共存していくのか。

今回の取材を通じ、日本でもそうした議論を本格的に始めておくべきタイミングを迎えているのではないかと痛感しました。


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